ワークライフバランスを実現させるときに直面する課題とその改善策

  • 投稿日:2019 - 8 - 25
  • 更新日:2024 - 3 - 11
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がむしゃらに仕事に打ち込み、残業が多いほど優秀だと称えられたのもひと昔前までの話。現代では、仕事とプライベートをうまく両立させる「ワークライフバランス」の確立が重視されつつあります。ただ、ワークライフバランスの導入や推進には数多くの課題があるため、頭を悩ませている企業担当者も多いでしょう。今回は、ワークライフバランスの実現に向けた課題、およびその改善策について解説していきます。

ワークライフバランスは実現している?

ワークライフバランスとは、仕事とプライベートのどちらかだけを重視するのではなく、両者の調和を図って充実させていくことを指します。日本では、プライベートを犠牲にしてでもとにかく仕事に打ち込み、長く働く人ほど優秀だと見なされる風潮がありました。しかし、これでは心身ともに健康な状態で働けなくなったり家族との時間を持てずモチベーションが下がったりして、逆に生産性が低下してしまう場合もあります。このため、政府は働き方改革の一環として、ワークライフバランスの実現も推進するようになりました。

ところが、実際には日本の企業すべてがワークライフバランスを実現できているわけではありません。日本の平均労働時間は、海外諸国と比べても長い部類に入ります。労働時間や働き方の柔軟性もあまりなく、ほとんどの人が同じ時間に働き始め、休日も同じ日に取るというスタイルが一般的です。もちろん勤務場所もほぼ決まっており、テレワークなどの在宅勤務を認めている企業は多くありません。日本において、ワークライフバランスが完全に実現できるのはまだ先のことになるでしょう。

導入時の課題

理解が得られない

ワークライフバランスの実現が進まない背景には、さまざまな理由があります。まず挙げられるのが、そもそも経営者側がワークライフバランスをあまり重視していないという点です。政府が勧める働き方改革の一環であると理解はしていても、あくまでも社会的責任や福利厚生のひとつとして捉えるくらいで、企業全体の問題として真摯に取り組もうとしないケースも珍しくありません。どんなに社員がワークライフバランスの重要性を説いたとしても、経営者側の理解が得られなければなかなか施行までには至らないのです。

また、経営者側がワークライフバランスのための制度を導入したとしても、社員の間で理解されなければ意味がありません。休暇制度や短時間勤務制度などがあっても、上司や同僚の視線が気になったり迷惑をかけるのを遠慮したりして、実際には取得しにくいこともあります。まずは経営陣と社員、双方がワークライフバランスの重要性を知り、理解を示すことが重要なのです。

導入方法がわからない

ワークライフバランスの意味や目的などがわかっても、それをどう実現していくべきなのかわかりにくいものです。具体的に何から手をつけたら良いのか、頭を悩ませている企業担当者も少なくありません。労働時間が比較的長く、働き方の柔軟性も乏しい日本では、ワークライフバランスとは対照的な文化が根付いています。このため、多くの企業において「何をすればワークライフバランスの実現になるのか」の目途が付かず、導入の手法が浸透していない現状があるのです。

コストがかかる

どのような制度でも、新たに企業に導入するためにはコストがかかります。導入にあたり、まずは社内調査をしたり費用対効果などをチェックしたりしなければなりません。特に、オフィス以外で仕事ができるテレワークを導入する際はさまざまな準備が必要です。常に上司が働きぶりを確認できないため新たな評価制度の整備が必要ですし、外部から社内システムにアクセスするためのセキュリティ対策強化も考えなければなりません。上司や同僚との意思疎通や業務の進捗管理を円滑にするために、コミュニケーションツールも必要になるでしょう。さらに、専門の組織を作ったり担当者を配置したりするなど、組織改革を進めるケースもあります。
もちろん、このような環境整備が必要になるのはテレワークに限った話ではありません。導入する制度に応じてさまざまな準備をしなければならず、時間やコストがかかるため導入に踏み切れない企業も多いのです。

社員の勤怠把握や評価が難しくなる

ワークライフバランスを実現するためには、長時間勤務の改善が必要です。限られた時間で効率良く仕事をこなさなければ、仕事とプライベートを両立させることはできません。このため、従来の日本で行われてきたような「長時間勤務=優秀」という評価ではなく、短時間で質の高い仕事をした人を高く評価するように見直す必要があります。ところが、短時間勤務やテレワークを導入した場合、社員がどのように時間を使っているのか直接確認することができません。勤怠や業務に対する取り組みを把握しにくく、適切な評価が難しくなります。この点も、ワークライフバランスの普及が進まない理由のひとつです。

推進時の課題

社員に不公平が出る

さまざまな課題を克服し、ワークライフバランスの実現に役立つ制度の導入にこぎつけたとしても安心はできません。導入した後は実際に働く社員に対し、ワークライフバランスの考え方や取り組みを浸透させなければならないのです。このとき、導入した制度によっては恩恵を受ける社員とあまり関係のない社員とに分かれ、不公平感が生まれる可能性もあります。たとえば、育児休暇など子どもを持つ社員を優遇する制度ばかりを設けた場合、子どものいる社員は喜びますが、そうでない社員は不満を抱くこともあるでしょう。

また、残業をする人としない人との間で溝ができる可能性もあります。テレワークを導入した場合、オフィスに出勤する人のほうが掃除や電話応対など余計な仕事をしなければならないことが多く、不公平感が出やすいです。このように、いざ導入した制度を進めようとしたときにもさまざまな問題が出る可能性があるため、注意しなければなりません。

給料が減る

ワークライフバランスの実現は、従業員にとってメリットばかりとは限りません。業務の見直しなどによって残業が減れば、その分残業代も出なくなるので給与が少なくなってしまいます。休日出勤もなくなることが多いので、その分の手当も減るでしょう。残業や休日出勤をする前提で収入を計算し、住宅ローンなどを組んでいる人は死活問題となる恐れもあります。従業員によっては、プライベートの充実よりも給与を維持することのほうを重視する人もいるかもしれません。この場合、制度を推進する経営者側と余計なトラブルになってしまう可能性もあります。

周囲の理解が得られない

日本に古くから根付いた働き方を長く経験してきた人には、ワークライフバランスのために導入される制度は理解しがたいと受け取られることもあります。残業は誰もが当たり前にするものだと思っている社員がいると、定時で堂々と帰るのは気が引けるものです。導入する制度によっては得をする人としない人に分かれ、社員同士の関係が悪化してしまうこともあるでしょう。また、テレワークをしようと思っても、家族から「家に仕事を持ち込まないで」「家事や育児に集中して」と言われてしまうケースもあります。

このように周囲の理解が得られず、社員自身が後ろめたい気持ちを持ってしまうと、ワークライフバランスという考え方は浸透しにくくなるでしょう。

仕事で成果が上げられない

ワークライフバランスの考え方は、仕事とプライベートの両方を充実させることを目指しています。プライベートを大切にすることだと思われがちですが、決してどちらかだけを重視しているわけではありません。しかし、ワークライフバランスを誤解して仕事をおろそかにする人が出てしまうと、生産性が低下する恐れもあります。また、社員は真面目に仕事に取り組んでいても、残業を禁止したり労働時間を短縮したりすると、どうしても業績や成果が落ちてしまうこともあるでしょう。制度を導入する場合は、ワークライフバランスの意味を正しく社員に理解させるとともに、成果との兼ね合いも十分に考えなければなりません。

生産性が低下するケースもある

プライベートを充実させるためには、労働時間を短くするのが効果的だと考えがちです。社員が自由に使える時間を増やせば、ワークライフバランスを実現しやすくなるでしょう。しかし、ただ単に労働時間を短縮するだけでは十分とは言えません。業務量はそのままで時間だけが短くなってしまえば、今やらなければならない業務が後回しになるだけです。多くの社員の未完了の業務がどんどん蓄積すると、企業全体としての生産性も低下しかねません。これでは本末転倒なので、定めた労働時間内に業務を終わらせられるよう、無駄な業務や効率化できる業務がないか見直すことも必要です。

施策の施行だけで実態がない

どんなに社員のためになる制度を導入したとしても、肝心の社員が制度をしっかり理解していなければ意味がありません。誰にも知られていない制度だと利用もしてもらえず、ワークライフバランスの実現は難しくなります。また、社員にとってあまりメリットのない制度や現場の状況にそぐわない制度を導入した場合、制度だけが独り歩きして実態が伴わず、導入コストも無駄になってしまうでしょう。制度を導入する際は経営陣だけで決めるのではなく、現場の声も聞いて十分に検討しなければなりません。

ワークライフバランスを実現させることのメリット

ワークライフバランスの実現にはさまざまな課題が伴いますが、だからと言って目を背けて良いものではありません。社員が仕事とプライベートを両立させながら働ける環境は、企業にとっても多くのメリットをもたらしてくれるのです。たとえば、自宅でも働けるテレワークを導入すると、育児や介護などで本来なら退職しなければならなかった社員の引き留めもできますし、遠く離れた地に住む人材を雇用することもできます。優秀な人材の定着は、コスト削減や生産性向上の面で見ても大きなメリットです。

また、積極的に働き方改革を実践している企業として政府から表彰されるなど、社会的イメージの向上にもつながります。時間や場所にとらわれずに働けることに魅力を感じ、求人への応募者も増える可能性があります。

改善策

職場全体で理解を深める

実際にワークライフバランスを浸透させていくには、企業が一丸となって理解を深めていくことが必要不可欠です。仕事で成果を上げつつプライベートを充実させるという目的を理解し、その重要性を社員と経営陣ともに共有していかなければなりません。一緒に働く部署内やチーム内は特にお互いの影響が大きいため、ミーティングや研修を重ねて理解を深め、新しい働き方に対して同じ意識を持つようにしましょう。特に、経営陣や管理職など上層部の人間の意識改革は大切です。上層部が率先してワークライフバランスに取り組めば、部下の意識も変わりやすくなるでしょう。

個人の意識を改革する

ある程度年齢を重ねた社員の場合、日本型の働き方に長く親しんできたため、短時間勤務や残業の削減など新しいスタイルを簡単に受け入れられないこともあります。残業代が手厚い企業の場合、ワークライフバランスの実現は収入の減少に直結するケースもあり、嫌がる社員もいるかもしれません。導入した制度を浸透させるためには、プライベートが充実することで仕事がはかどり、モチベーションや生産性の向上につながるという良い循環を、個人単位で意識させることが大切です。個々の意識が高まり、労働時間内は効率良く一生懸命働いて残業せずに帰るという人が増えれば、周囲もそれに影響されて制度が浸透していくでしょう。

業務に柔軟性を持たせる

ワークライフバランスのために労働時間を短縮するなら、同時に業務の効率化も考えなければなりません。業務がこれまで通りなのに働ける時間が短くなると、結局仕事を家に持ち帰ったり後回しにしたりして、取り組みが無駄になる可能性もあります。あまり重要ではない業務はカットするなどして、労働時間とのバランスが保てるように配慮しましょう。また、すべての業務をマニュアル化したり共有したりして、誰もができる状態にしておくことも効果的です。「この仕事はこの人しかできない」という状態になっていると、その社員が休めば業務がストップしてしまうため、社員にとっても周囲の同僚にとってもあまり良くありません。

いざというときに誰でも業務をこなせるようにしておけば、誰もが気兼ねなく休みを取ったり仕事を割り振ったりできるため、ワークライフバランスも普及しやすくなるでしょう。

時間と労力をかけて定着させる

ワークライフバランスを実現するには、制度を定着させるために時間と労力をしっかりとかける必要があります。たとえば、職場全体に対する制度の説明は、一度おこなえば済むものではありません。最初のうちはワークライフバランスに対する意識が低い社員も多いため、周知しても関心をもってもらえない可能性があります。継続的に発信をおこなわないと、職場全体での認知度はなかなか高められないでしょう。
また、制度を導入する前に社員の希望を聞いたり、プロジェクトとして進行している段階で状況を報告したりするのも効果的です。新しい制度が定着するまでには時間がかかるため、その時間をしっかり考慮してプロジェクトを進めることが大切です。

実現へ向けてPDCAサイクルを回す

真の意味でワークライフバランスを実現するには、社員にとって本当に必要な制度を構築する必要があります。もちろん、さまざまな状況を検討したうえで制度の導入をおこなうのが大前提です。しかし、どんなに入念なシミュレーションをしていても、実際に制度を運用し始めると何かしらの課題が見えてくる場合がほとんどです。そういった課題をしっかり検証して改善を重ねなければ、ワークライフバランスを実現することはできません。また、時間の経過とともに、求められる制度が変化する可能性もあります。
よって、制度を導入した後も、制度の効果を定期的にチェックする体制を維持し続ける必要があります。PDCAサイクルを回しながら、制度の内容をブラッシュアップしていきましょう。

ワークライフバランスの課題に合わせて解決策を考えよう!

ワークライフバランスの実現には課題が多いですが、だからと言って放置して良いものでもありません。働き方改革を推進する政府に応じるためにも、できることから始めることが大切です。まずは自社の課題を明確化して最適な制度を検討し、現場の声もふまえながら改善策を取り入れていきましょう。経営陣と社員の双方がワークライフバランスへの理解を深め、一丸となって取り組むことが成功の秘訣です。

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